映画『グリオ』レビュー by グレッグ・クリムキウ

ウィニペグ・フィルム・グループ(WFG)〈カナダ〉

エグゼクティブ・ディレクター

2013年10月22日

Griot Review by Greg Klymkiw

Executive Director: Winnipeg Film Group (WFG)

from The Film Corner with Greg Klymkiw: GRIOT

October 22nd, 2013

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[準備中 (2024年1月現在)]


グリオはアフリカの歴史や文化の本質そのものだろう ― 少なくとも、私なりにフォルカー・ゲッツェ氏の作品を解釈するかぎりでは。グリオと呼ばれる神聖な存在は、歌い手、語り手、共同体のリーダー、賛辞の伝え手で、歴史や伝統を伝える口承文化の守り手でもある。

 

映画『グリオ』を通して、彼らの歴史を学び、レジェンド級のグリオと呼ぶにふさわしいアブライ・シソコ氏に巡り会えたことは、個人的にも実に深い僥倖であった。

 

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私自身は、どんなに解釈を広げてみたところで、アフリカ人ではない。しかし、この惑星に暮らす全人類の例外に漏れず、私はアフリカの人々と、そして彼らは私と、人類愛の血統をお互いに共有している。

 

結局のところ、我々はみな宇宙の塵から生まれた存在で、だからこそ天界の末裔でもあるのだろう。それを神と呼ぶか、尊い力と呼ぶか、至高の存在と呼ぶか、暗黒物質、量子物理学、ドレイク方程式と呼ぶか、呼び方は本人次第だ。

 

いずれにしても、我々人類はみな一体であり、この偉大な音楽家のめくるめく力に巡り合えたことに、私は畏怖や敬愛とともに大いなる天の恩恵を感じるのだ。

 


 

 

"I share the blood of humanity with the African people"

 

"アフリカの

 人々と

 人類愛の血統を

 共有している"

 

 

 

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映画『グリオ』は、色彩豊かで感動的な、心の琴線に触れるドキュメンタリー作品だ。作品内では西アフリカのグリオの伝統をめぐって、抒情的で詩情あふれる探訪が繰り広げられる。

 

西アフリカ文化において、グリオは地域固有の原住民族に根ざした大切な役割を担う存在だ。

 

そして何よりも重要なのは、グリオがアフリカ人のディアスポラ全体に ―特に米国において― どのように影響を及ぼしてきたかという点だろう (*)

 

* ディアスポラ: 民族離散。または民族離散により、元の土地を離れて離散先に定住する民や、そのコミュニティー。

 

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作品のシンプルな構成は、むしろ好ましい。グリオをめぐる様々な事実、歴史、そしてスピリチュアルな側面が、浮き彫りにされていくからだ。

 

作品の鑑賞者は、切ないほど美しい調べに身をゆだね、その調べが奏でられるさまを目で愉しみ、踊りや音楽からあふれ出る歓びを満喫できることだろう。そして何よりも、現代社会におけるグリオの深い嘆きを知ることだろう。

 

文化や伝統は、血統にそなわる権利だ。しかし、歴史はそれをもてあそぶ。植民地主義や奴隷制度に抑圧された時代もあった。また、昨今のアフリカのリーダー達は、その保護にまるで興味を示していないかのようにも見える。そして、グリオ達の間ですら、グリオの役割の本質には、発展と原点回帰の双方が求められている。

 

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グリオが抱える葛藤は、「私たちすべて」が抱えている葛藤そのものだと、私は心より思う。ゲッツェ監督の映画的な視線を通じてシソコが伝えるメッセージは、実に普遍的で、我々すべての心にふれるものだ。

 

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  "The message 

  Cissoko imparts 

  touches us all"

 

 

"シソコの

メッセージは

我々すべての心にふれる"

 

  

 

 

アブライ・シソコのメッセージは、鑑賞者の個人的な琴線にも触れるかもしれない。私の場合はそうだった。

 

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ここで、この素晴らしい物語への、ひどく私的で、文化的なつながりについて綴ることをご容赦いただきたい。

 

私の家系はウクライナ人だ。1000年以上にわたり、主にロシアから、虐げられ、惨殺され、弾圧され続けてきた文化と言語の民族である。

 

昨今の歴史で言えば、おそらくもっとも悲惨な出来事は、希代の虐殺者ヨシフ・スターリンにより組織的に執行された、ウクライナ文化の破壊とウクライナ民族に対する暴虐だろう。この史実は常に私の脳裏にこびりついている。

 

スターリンは、人為的に引き起こした大飢饉によって、約1000万人のウクライナ人を組織的に集団虐殺した(*)。この件は、「絶望の刈入れ(Harvest of Despair)」や「ホロドモール」とも呼ばれている。

 

そればかりではない。私がとりわけ凄惨な虐殺と考えるのは、文化の抹殺だ。スターリンは、ウクライナ人に強制的なロシア化を執行した上に、1000年にわたる歴史を破壊したのだ。

 

* 人数は諸説あり。昨今の研究成果は書籍『The Voices of the Dead / Hiroaki Kuromiya』をはじめ、黒宮広昭・米インディアナ大学教授の著作などに詳しい。

 

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この映画作品に、個人的におおいに心を動かされた背景はここにある。

 

私の民族は本質的には農耕民族で、民族の歴史や文化の総体は、きわめて厳格な口承の伝統で受け継がれていた。

 

西アフリカのグリオにも似た人々は、ウクライナではコブザール(Kobzar)と呼ばれていた。グリオと同じように、コブザールの才や社会的な立場は、格式ある修行ではなく、血統を通じて受け継がれていた。コブザールは国の歴史の守り手だったのだ。

 

ヨシフ・スターリンは全国大会の名目で、ウクライナの全コブザールをロシアに招待した。大会を祝い、コブザールの今後のあり方を議論しようというのだ。コブザールたちは今後いかにして、ツァーリスト(ツァーリ帝政支持者)たちによる圧政のくびきを払い、新たな方向を受け入れていくべきか。新たな方向とはすなわち、革命、共産主義、スターリンを称える方向だ。

 

すべてのコブザールたちがひとつ屋根の下に集められたところで、スターリンは全員を射殺した。約1000年間の歴史は、一挙に消し去られてしまったのだ。

 

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詩集『コブザール』(初版1840年)

高名なウクライナ人、タラス・シェフチェンコによる詩集。

 

"Kobzar": The poetry book by the prominet Ukrainian Taras Shevchenko, first published in 1840.

Photo by felixum8888 from Flickr

 

『小ロシア(ロシア帝国時代のウクライナの呼称)歌集』

ウクライナ・ハルキウ市にて1880年出版。表紙の男性はコブザール。

 

"Little Russia's Songs" (Ukraine was called under this name in Russian Empire): printed in Kharkiv in 1880. In Ukrainian. The man on the cover is a kobzar.

Photo by felixum8888 from Flickr

 


「スロボダ・ウクライナ」地域のコブザール、P.ドレブチェンコ &

ポルタヴァ市のコブザール、M.クラフチェンコ。

撮影は1902年8月、ハルキウ市で開催された第12回考古学会議にて。

 

Slobozhan kobzar P. Drevchenko and Poltava kobzar M. Kravchenko.

Photo taken in August 1902 in Kharkiv during the XIIth Archeological conference.

Public Domain

Photo by Yakudza from wikipedia | Kobzar 

 

 

   "The most horrendous 

    genocide is 

    a cultural decimation"

 

 

 "とりわけ凄惨な

  虐殺は

  文化の抹殺だ"

 

 


 

  

 

作品内では、輝かしい才や思いやりにあふれ、献身的な尽力を続けるアブライ・シソコが嘆く。文化の場の痛ましいありさまに。そして、伝統や、千年単位にわたる歴史や文化に対する、政府の無関心さに。彼の嘆きには、深く心を打たれずにはいられない。

 

しかも、グリオは今でも存在している。血で結ばれたアフリカ文化におけるグリオの立ち位置は、力ずくで根絶させられるようなことがあれば、絶滅の一途をたどるしかないのだ。

 

幸い、この貴重な伝統は、映像作家にして音楽家のフォルカー・ゲッツェがカメラに捉えてくれた。作品には、彼らの音、姿、さらに精魂までもが残され、西アフリカの枠を超え、演奏会場の枠を超えてこの伝統を運んでくれる。そして、世界中のヒューマニティー(人間愛)あふれる智や魂の奥底に届けられるのだろう。

 

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私の民族はコブザールを失ってしまった。

 

しかし、グリオが存在して生い茂るかぎり、人類の歴史や伝統は、西アフリカの素晴らしい人々の言葉や教えの中に生き続けていくのだろう。― 星屑の力を通して。我々すべての人類を結ぶ、血流の大河を通して。そして何よりも、魂を浄化する恩寵や美しさに満ちた、グリオの音楽を通して。私はそう確信する。

 

 

この作品は、文化は我々すべてを結びつけてくれるという大いなる希望を、私にもたらしてくれた。

 

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 "The important tradition 

  can travel into the

  hearts and minds 

  all over the world"

 

 

貴重な伝統は

  世界中の

  智や魂の奥底に

  届くのだろう

 

  

 

  

アブライ・シソコは作品内で、「文化を失えば アイデンティティーも… からっぽになるのに」と、つぶやいている。

 

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しかし、彼は何も恐れることはない。

 

シソコの血は、他のグリオの血統と同様に、血流の大河に流れ続けてゆくことだろう。その血は魂を奏でる音楽に流れ、ほとばしる流れは大地に支流をなし、何かしらの大いなる力より加護を得て、グリオは生い茂り続けてゆくことだろう。

 

シソコは我々を癒し、天や祖先への祝詞を奏でる。

彼が称える祖先は、根源的には我々すべての祖先でもある。

 

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私たち人類は、ひとつなのだから。

  


オーディオヴィジュアル・アートブック 『シークレット・アイランド / フォルカー・ゲッツェ & サム・サモア (2020年)』 イメージ映像より

 from the Audiovisual Art Book "Secret Island by Volker Goetze & Sam Samore (2020)"

 

 

オーディオヴィジュアル・アートブック 『シークレット・アイランド / フォルカー・ゲッツェ & サム・サモア (2020年)』 イメージ映像より

 from the Audiovisual Art Book "Secret Island by Volker Goetze & Sam Samore (2020)"

 

 

グレゴリオ聖歌と中世音楽 : ノートルダム大聖堂(仏パリ)にて撮影 2017年12月:フォルカー・ゲッツェ)

 ノートルダム大聖堂のオルガンは、2019年4月の大火をまぬがれた。

2020年8月より約4年間に及ぶレストア(解体修復)が開始され、次回の演奏は2024年4月16日に予定されている。調律だけでも約6カ月を要するという。

 

Notre Dame - Paris - Gregorian Chants and Medieval MusicVideo by Volker Goetze in Dec 2017

The organ survived the Notre-Dame de Paris fire in April, 2019. The four-year restoration started in August 2020, and the next play will be on April 16, 2024. It will take six months just to tune the organ.

 

 

絵本『Wird Bird』 イメージ音楽&映像: ハーレムの小学校5年生たち!(米ニューヨーク市)by ホルコム・リード(レスリー・マルケイ)

 

(youtube 動画 Leslie Mulkey の解説文より) 映像出演は、PS192小学校(米ニューヨーク市ハーレム地区)5年生の元気な生徒たち。音楽はモーラ・モロイと一緒に生徒たちが作曲しました。

 

特別協力として、ジャズ・フュージョン音楽の作曲と演奏で高名なウルグアイ人のベレドも撮影に参加してくれました。モーラが彼に話してくれたおかげです。ベレドは映像の冒頭に『What's the wird, Wird Bird!』の曲を加えてくれたり、撮影現場やスタジオで、楽しく暖かいギターのリフをあちこちに散りばめてくれました。(ベレドの詳細はコチラ:  http://www.beledo.com/who.htm)

 

この動画は、筆名ホルコム・リードこと、私、レスリー・マルケイが執筆した子ども向け絵本『Wird Bird』のイメージ映像です。

(編集: AVID Media Composer 7.2 使用)

 

Wird Bird: Music Video - Harlem 5th Graders! by Holcomb Reed (Leslie Mulkey)

 

(Description from the youtube page: Leslie Mulkey) Delightful fifth graders from Harlem's PS 192 star in a music video that they wrote with Maura Molloy. A special treat, Maura persuaded renowned Uruguayan jazz fusion composer and performer, Beledo, to join the shoot. Beledo added the musical introduction "What's the wird, Wird Bird!" and more than a few delightfully warm guitar riffs both on location and in the studio. (Backgrounder on Beledo: http://www.beledo.com/who.htm)

 

This video is based on the children's picture book "Wird Bird" by Holcomb Reed (me).  - Edited on AVID Media Composer 7.2